いよいよ最終回です。と言ってもすごい盛り上がるようなことは一切ないんですけれどね。
ズクナシです。
今回最初で最後かもしれない裁判員として、初めて裁判の中の人になってきました。一番最後は評議についてです。
実は評議の場のことを細かく描写することは出来ません。また評議で誰がどんな事を言ったかも書けません。プライバシーということは当然で、評議で誰がどんな事を言ったかを書けば量刑で不利だったか有利だったかなど憶測を呼び、次の裁判員の人が萎縮してしまったり、また最悪の場合裁判員に対して裁判の利害関係者が接触をしてきたりととても困ったことになるのは目に見えているからです。
という事で評議の雰囲気、評議ってどんな風にやるのかということに絞って話をしてみたいと思います。
まず評議評議と書いてますが、一室に集まり裁判官と裁判員全員で行う審理の事を評議と言っています。これは一般的ではなく今回がそうだったからで、何らかの定義があるのかもしれませんが、おおよそというところで特に問題はないでしょう。
さて、裁判では証人や被告人に様々な質問を投げかけ、そこで話したこととが記録されます。そして警察や検察が取り調べや捜査の過程で様々なもの、画像、動画などを集めてきます。警察や検察が集めたそれらのうち裁判に提出されたものは証拠として扱われます。裁判で記録されたことも証拠として取り扱われます。実はそれらだけで評議は行います。前に書きましたが、ウェブでの情報は証拠になりません。
そして評議では全てを調べるのではなく、被告と検察が争っているところの白黒を付けます。
例えばAさんがBさんを殴って金を持っていった。という事件の場合。被告AさんはBさんを殴ったのは認めるけど金は奪ってない。金はBさんが勝手に出したんだと言いはったとすれば、殴ったか殴ってないかはもう調べる必要ないです。奪ったのか差し出したのかを評議するのです。
ただ、前後の状況などが詳しくわかっていれば(例えば防犯カメラに写っていたとか、第3者が動画撮っていたとか、偶然近くに違う人がいたとか)分かりやすいですが、それだと裁判で争うほどにはなりません。だからだいたいそういう細かいところはわからない。とするとある程度推測をすることになりますが、ここには一つ重要なルールがあります。疑わしきは被告人の利益にです。何でもかんでも推測で片付けてしまえばフィクションになってしまいます。事実に近い事を認定しなければいけない。そして本当にわからないことについては被告人の利益に。といいますけれど色々考えていくとなんかこれってやっぱりねぇというふうに先入観的なものもあるのは確かです。またもう少しここのところはどうだったのか教えてほしいとか、何でこの証人呼んでくれないのかな?というような希望要望もあります。ですがここにあるものだけで評議をしないといけません。ここで見たもの聞いたものを頼りに判断するのです。
検察は自分達が出してきた証拠に沿って論告をし被告がどういうふうに犯罪を行ったかを描き出します。対して弁護人は同じ証拠からまた別の状況を描き出します。どちらも(少なくとも私は)全然嘘とは言えません。一つの状況が検察から見たら犯罪で、被告側から見たらそうじゃない・・・極端に言えばそう思えてきます。ただ私一人だとそうなるかもしれませんが、補充裁判員も含めて11人がああでもないこうでもないといろいろな観点から状況を考えてみました。ブレインストーミングという言葉がある意味ぴったりな数日でした。体を使った作業は一切していないにも関わらず家に帰るとぐったり疲れている数日間でした。
そして判決の日を迎え量刑を決めるときが来ました。
意見が一致しなかったら評決はどうなるのですか。(裁判員制度Q&Aより)というところに書いてありますが、有罪無罪、有罪の場合の量刑については全員一致だと楽なんですが、まあそんなことはないでしょうね。なので多数決になりますが、その場合も特殊なルールがあります。- 量刑についても被告人に有利になるようにする
- 多数決で過半数をとった場合でも裁判官と裁判員が最低でも一人づつ入っていなければいけない。
- 入っていない場合はその次に軽い量刑と票を合算しそこで両方とも入っていればそれを量刑とする。
評決で票を投じることができるのは裁判官と裁判員だけで補充裁判員は出来ません。なので9票のうち5票で決まります。簡単に言うと…
- 懲役10年 (裁判)員1人 (裁判)官0人
- 懲役9年 員1人 官1人
- 懲役8年 員0人 官1人
- 懲役7年 員1人 官0人
- 懲役6年 員2人 官1人
- 懲役5年 員1人 官0人
となった場合過半数はいません。で思い量刑の方から下に票を加えていくと懲役9年は裁判員2人裁判官1人でまだ足りず。懲役8年は裁判員2人裁判官2人ですがまだ足りず。懲役7年で裁判員3人裁判官2人になるので、量刑は懲役7年になるというシステムです。この場合一番票が多いのは懲役6年ですが過半数に足りないです。
これで裁判員の仕事は終わりです。裁判員になって裁判の真っ只中にいて色々な証人や被告人の話に耳を傾け、質問し記録し意見を出し合い、話し合い、最後に被告人に判決を言い渡す(正確には言い渡しは裁判長ですが)それが被告人の為になるはずと思って最後までいました。判決公判も終わりおよそ2週間慣れ親しんだ評議室に戻り最後にいくつか書類にサインしたり、記念品をもらったりします。
今回の裁判員について裁判長から促され一人ひとり感想を述べます。裁判官も述べます。最後に裁判長が話したときに彼女は不意に涙をこぼして、声をつまらせて「本当に素晴らしい皆さまと裁判が出来ました」と言われました。とても利発でキュートな女性の裁判長で、ちゃっちゃと場を仕切る元気な姿を見ていたのでとても驚きました。そしてそう言っていただけたことは本当に嬉しい誇らしいことでした。
そうして私達は裁判員という仕事を終えて帰途についたのでした。
追伸