“はなうた”を呑みながら・・・
はなうたという名前の焼酎を呑んだ。

正直な話、焼酎はあまり好きじゃない。大学に入って酒が飲めるようになった時は、ビールばかりだった。周りの同じ年代の連中や先輩もほとんど同じだった。中にはウィスキーを飲むのもいたが、値段も値段だしそうは呑めなかった。ただ一人ある先輩は焼酎を一升瓶からコップに注いでぐいぐい煽っていた。私は何気なく聞いてみた。
「先輩、何で焼酎ばかり飲むんですか?」
「手っ取り早く酔うためだよ。」
何故かかっこいいと思ったよ、その先輩を(笑)たぶん胸の奥がキュウンと鳴ったね、その時。
その先輩は割りもせず一升瓶から焼酎をどかどか呑んでいたが、帰るときも呂律は回らなくても一人で下宿に帰っていった…筈なのだが、後でほかの先輩から聞いた話では、田んぼ落っこちたり道端で寝ちゃってたり結構グダグダだったようだ。それでも後輩の前ではシッカリ格好をつけていた。
翻って私が先輩と呼ばれるようになった時には、やっぱりビールだった。せいぜい日本酒。焼酎は沢山のウーロン茶か炭酸で割らないと飲めなかった。その先輩に永久に追いつけそうもなかった。

大学を出て色々な職に付き、大学の時のサークルの事や、その先輩の事も忘れ、世間にどっぷり浸かっていた頃、私は人生という広い道の上で、何故か大きな石に足をとられてスッ転び、立ち上がる気力も薄れ、私がつまずいた石を睨み付けながらじーっとうずくまっていた。その頃始めて焼酎が旨い・・・というか焼酎じゃないと酔えなかった。毎日720ccの安い焼酎を買ってきてだいたい2/3ぐらいその日のうちに飲んでしまう。次の日もまた一本買ってきて、昨日の残りと、新しいビンから1/3ほど飲む。そしてその次の日は残りを飲み切る。

体に良いわけはないが、そうしないと夜も寝られなかった。

その後、立ち上がりまた人生の荒波を渡っていくようになったが、以前とは違って酒はビールも日本酒もそして焼酎も飲めるようになっていた。

大学を出て十数年経って、昔を懐かしく振り返るような年になってきた。
インターネットで自分の大学の出身サークルを探すと果たしてまだちゃんと活動していたのだった。久しぶりにBBSに書き込むと、自分の直ぐ下の後輩から返事のコメントが入った。
「今度OB会やりますからぜひ来てください。」
喜んで!と私も了解のコメントを入れた。

十数年ぶりのみんなは全然変わっていなかった(笑)
その中にはあの先輩もいた。相変わらずテンション高く・・・一升瓶から焼酎を注いで呑んでいた。私もそのビンから注ごうとしたら先輩がそのビンを放さずに言った。
「これは俺専用!お前はあっちのお子様用を飲んでな。」
相変わらずだなぁとビールを持ってきて乾杯した。
「みんな変わってないなぁ。」

夜も更け各自部屋に戻ってそろそろ寝ようとなった。私は久しぶりで興奮していたせいもあってか、酔いを実感していなかったが、同室だったかつての同輩がまあ明日もあるしと言って私の袖を引っ張る。まあそうだねと彼に同調したが、腑に落ちずホテルの廊下で聞いた。
「なあ、何でお開きにしたんだ?もうちょっといけるだろう?」
「お前はずっと来ていなかったから知らないだろうけど、先輩は酒が飲めないんだ。」
エッ!さっき呑んでいた、イヤあれは酒じゃない水だ。
彼の話を聞いて愕然とした。まだ私が大学にいた頃、先輩は婚約者の同級生が他の男の子供を孕んだせいで破談となって、自暴自棄になっていたのだと。そしてそのまま結婚もせず大学に残って助手から助教授になるかならないかの頃に、肝臓を患って今は透析をしながら大学に残って研究しているのだそうだ。ずっと酒を浴びるように飲んでいたせいだと彼は言った。
「先輩はもう昔のように酒も飲めないし、騒いだりも出来ないそうだ。」

OB会に来た時私は先輩を見つけて、私も呑めるようになった焼酎を酌み交わそうと思っていた。そうして隔たった間を少しでも近づけようと。でも先輩はずっとずっと先に行っていた。
「こんな所に来ちゃいかんぞ!」
そういえば会った途端先輩はそう私に言った。
「えぇ、何でですか、久しぶりに会った可愛い後輩に言うこっちゃないでしょう。」
「お前は昔を懐かしむような奴じゃない、えらいやっちゃと思っていたんだぞ俺は。普通の親父になりやがって。」
そういって嬉しそうに肩をぽんぽんと叩いてくれた。そっか。ホテルの布団の中で噛締めた。勝てないなあ。

OB会も終わって家に帰ってきた。妻が私を見て頭をなでる。
「何だ?!」
「今にも泣きそうな顔をしていたよ。」
リビングのソファーに突っ伏して声を立てないようにクッションを噛締めて泣いた。妻が横に座って何度も何度も頭をなでてくれた。

夜、焼酎を呑む。ネットでエレファントカシマシのCMhttp://www.youtube.com/watch?v=kaae1u6b50sを見た。そこに出ていた焼酎を買ってきた。それがはなうただった。
生で呑むと芋の香りが強い。水で薄めても、炭酸で割っても香りは消えなかった。ホッピーでもウーロン茶でもそれは変わらなかった。
ああ、そうだ、そうしよう。この焼酎は先輩だ。先輩、頂きます。スーッと鼻から息を吸っていも焼酎の香りを肺に一杯溜め込み、少し冷やしたはなうたを口に含む。ゴクリと音を立てて呑み込めばため息とともにもう一杯呑んでみたくなるのだ。

そうして私は先輩との間を埋めていった。
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by zukunashi | 2009-09-17 00:26 | 小ネタ


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