池波正太郎の『乳房』
鬼平犯科帖の番外編になるこの話は、以前女性を主人公にした短編集で全く同じ出だしの話があったのを覚えていたので、その話がどのように変化しているか読みたくて、見つけた古本屋で買ってきたのもです。

池波正太郎は私の好きな時代小説家です。以前、日本経済新聞の小説で隆慶一郎の『捨て童子・松平忠輝』を読み、時代小説は垢抜けないつまらない物だと思っていた意識を打ちのめされています。それまではSFばかり読んでいたので、それから隆慶一郎や津本陽などの作家を読み始め、SFと同じ小説の楽しさを感じドンドンはまっていきました。ところで当時も今もテレビドラマは大の苦手だったのですが、ちょうどその頃池波正太郎の『鬼平犯科帳』をやっていて、また鬼平に中村吉右衛門が非常にピタリとはまり役で、なおかつ脇を固める江戸家猫八、尾美としのり、多岐川裕美がよく練られた脚本にチャンと乗っかり、そのとき初めて池波正太郎に触れました。なのに本で読んだのは『剣客商売』。なのにそこでまた層倍のめり込みました。今のところ抜け出る気配すら見えません。

さて前置きが長くなりましたが、『乳房』という小説、始めは以前読んだ短編小説と出だしが同じという理由で買ったのですが、読んでいくと我知らずその作品世界にはまり込んでいました。しかも最初は鬼平の『お』の字も出てきません。実際気が付かずに買っていた私は、長谷川平蔵宣以が出てきたにもかかわらず鬼平番外編だと気がついていませんでした。ただし番外編とはいえ鬼平の話とは確かに言い難い面もあります。話の筋には盗賊が出てきてそれを捕縛する活躍シーンがあります。ただしそれは付け足しのような物。主人公は『お松』という最初は大店の女中です。男に騙され、助けられ、様々な生活を体験するうちに意外な結末へとなっていきます。
こう簡単に書くと、どうという事はない普通の「女の一生」という風情ですが、彼女を取巻く人々が様々にお松と絡み、その絡みを解きほぐすように長谷川平蔵がお松と見えない線で繋がっていきます。大きな舞台装置があるわけではなく、英雄がいるわけでもありません。むしろどうという事のないごく普通の庶民の話が、何故これほどまで心を躍らせ読み進めたくなるのか本当に不思議です。

ご存知のとおり私も少々文を書きます。少しは上手くなった、多少は良い文が書ける、短編、ショートショートならいけるんじゃないか?と感じるようになったとき、たまたま池波正太郎を読むとズンどこに落ち込みます。緩んだ気をもう一回締め直されます。彼の文を読み、今度はもっと良い文を書こうという気にさせられます。
この様に私にとってはよき師であり、目標であり、まねをする相手であり、永遠の一里塚です。池波正太郎とその文庫本は今もパソコンの回りにあります。疲れたりしたらチョッと読んで・・・・・・夢中になって読んじゃうのでかけません。ダメじゃん(T_T)
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by zukunashi | 2005-02-22 23:25 | Comments(0)


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